院長の健康コラム

※ 地域情報誌"ともも"に掲載されました

糖尿病と尿アルブミン

2012年06月掲載

糖尿病の診療をする上で尿検査はとても大切です。三大合併症の一つである腎症の診断に役立つからです。健康な人の尿にタンパクは検出されませんが、糖尿病になってある程度の年数がたつと、試験紙法という簡易検査でも陽性になります。実はこの状態は第1期から第5期まである糖尿病性腎症の病期のうち、第3期にあたります。タンパク尿があれば残念ながら腎症は相当進行しているのです。検診結果を見るときは血液検査だけでなく、ぜひ尿検査にも注目してください。腎症をもっと早期に診断するための方法として、尿中アルブミン検査があります。粒子の細かいタンパクを測定するもので、これなら第2期から診断できます。腎症は透析にまで至る恐ろしい合併症ですが、早く発見できれば進行を阻止する手立てを講じることが可能です。

このページの先頭へ

糖尿病と海外旅行

2012年06月掲載

夏休みに旅行を楽しまれる方も多いことでしょう。今回は海外旅行で注意すべきポイントについてまとめてみます。

「エコノミークラス症候群」という病名をよく耳にします。身動きの出来ない座席に長時間座ることで血栓が生じ、次に体を動かした時にそれが詰まって脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などを起こす疾患です。体全体を動かすことは無理でも膝から下、足首から先を時々動かしておくことが予防になります。機内のドリンクを頼むときは、アルコールは避けお茶などで水分補給をしておくといいでしょう。

インスリン注射で治療中の患者さんはインスリンの機内持込に注意して下さい。最近はテロ対策で診断書が必要になることがあるのです。海外旅行の予定のある方は主治医に依頼して英文の診断書を用意してもらいましょう。さらに症状の急な変化に備え、処方や病状を記載したカードを作成してもらうとよいでしょう。インスリンのカートリッジはガラス製のため、トランクに入れておくと衝撃で破損する可能性があります。またトランクを紛失することも考えに入れて手荷物にしておけば安全です。

このページの先頭へ

神経障害

2011年10月掲載

糖尿病の合併症の一つに神経障害があります。

自覚症状として足の裏や指先のしびれが現れます。慢性化すると長時間正座をした時に経験するようなジンジン、ピリピリした感覚が続きます。さらに進行すると、知覚鈍麻といって痛みを感じにくくなります。傷があっても自覚し難く、それが発端となって、足の一部を切断するような重い足病変を起こす危険があるのです。

当院では看護師によるフットケアを130分の予約制で行っています。神経障害の有無を判定し、足病変の進行を防止するのが目的です。ふだんの足の観察や靴の選び方も大切なポイントなので、アドバイスしています。動脈硬化による血流障害も足の病状の悪化につながるため、血糖コントロールだけでなく血圧、脂質データの改善、禁煙が対策として重要です。

このページの先頭へ

糖尿病と禁煙

2011年10月掲載

タバコを11000円にしても税収は変わらない、という試算があるそうです。現在吸っている方には厳しい時代がやってきそうですね。

喫煙は従来から動脈硬化を促進するため問題とされていました。特に糖尿病では疾患そのものが動脈硬化を進めるのでタバコが加わると、心臓病や脳卒中の危険度がさらに高まります。それに加えて最近の研究では120本吸う人たちの糖尿病発症危険度は6割増加することが示されました。受動喫煙であっても糖尿病やメタボリックシンドロームへつながる可能性もあります。

現在禁煙治療は健康保険を使って受けることができます。内服薬と張り薬があり、禁煙指導を受けながら使用すると禁煙の成功率は高くなります。当院は禁煙治療の認定施設に指定されています。認定施設には禁煙治療専任の看護師がいますので、適切なアドバイスを受けながら禁煙プログラムを進めることができます。

1000円になってからやむなく、ではなく健康のために今決心してみませんか?

このページの先頭へ

糖尿病と血栓症

2011年10月掲載

糖尿病の患者さんには血栓症が起こりやすいといわれます。

ひとつには早期より動脈硬化が進行するからだと考えられます。当院では頚動脈エコー検査を行いますが、糖尿病の患者さんでは初診時すでに血栓の原因になるプラーク病変を認めることがあります。発症前の予備軍の段階から動脈硬化が出現することが、研究により明らかになっています。

さらに糖尿病では高血糖のため血液が粘りを増し、血栓ができやすくなります。ことに夏場は汗をかき、水分が失われやすくなるため要注意です。脳梗塞も脱水が引きがねになることがあるのです。予防のためにふだんより多めに水分を取るように心がけましょう。

このページの先頭へ

インスリン治療って?

2011年09月掲載

インスリン治療は特別なもの?

 

糖尿病の治療薬には経口薬とインスリンがあります。インスリンは注射ということもあって特別なものという先入観が一般に強いように思います。

特に長年経口薬で治療してきた方がインスリンに変更となる場合に抵抗が強いことをよく経験します。

そもそも糖尿病を発症した時点で膵臓からインスリンを分泌する能力は相当落ちています。ところが現在主力となっている経口薬は、その弱った膵臓を刺激してインスリンを搾り出すことで不足を補います。「やせ馬に鞭」という表現がよく当てはまるように、このやり方には無理があって平均10年程度が限界です。膵臓に負担をかけない経口薬の開発も進んでいますが、使えるのはもう少し先になりそうです。

当院では11回からの注射開始を選ぶ方が増えています。これなら患者さん自身が都合のよい注射時間を選べますし、入院せず外来で始めることも可能です。血管注射と混同している方がありますが、インスリンは皮下注射で特別なテクニックはいりません。痛みも想像よりはるかに少ないものです。

感覚的な好き嫌いではなく、ご自分の病状に合った治療法を選ぶことが最優先と考えます。

このページの先頭へ

人工甘味料

2011年09月掲載

カロリーオフやゼロカロリーと表示されたドリンクをコンビニの棚で見ることが多くなりました。たいていは砂糖、ブドウ糖の代わりに人工甘味料が使われています。甘さは砂糖の数百倍ありますが、それ自体にはほとんどカロリーはありません。

ダイエットの強い味方といえそうですが問題点もあります。人工甘味料を長い年月、とり続けた場合の影響についてはまだ明らかではありません。大量摂取で肝障害を起こした例もあります。

人間の脳には甘さを感じ取って、からだに満足感を与えるスイッチが存在することが明らかになっています。人工甘味料は舌には甘さを感じさせるのですが、自然の糖とは違い脳の満足スイッチを押すことはしません。そのため結局は他に糖質を摂取してしまい、肥満につながる恐れもあります。太古より使い慣れた自然食材に勝るものはない、ということかもしれません。

 

このページの先頭へ

認知症

2011年05月掲載
糖尿病の患者さんは認知症になりやすいか?
答はyesです。糖尿病では脳血管障害が原因となる血管性認知症に加えて、アルツハイマー病も起きやすいことがわかっています。両者を合わせると認知症発症の危険は一般人2.5倍あるとされています。糖尿病では脳内でもインスリンの働きが低下し、そのためアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドの脳への沈着を促進するという機序が解明されました。
一方で治療の結果として起きる低血糖も認知症のリスクを高めます。
高齢者が4年間に2回以上重症低血糖を起こすと認知症の危険は2倍に高まる、と海外で
報告されています。高齢者では無自覚の内に低血糖が起きているケースも珍しくないので、血糖コントロールが良好であってもその裏に低血糖が潜んでいないか、注意してみる必要があります。すでに認知症を合併した患者さんでは、インスリン注射などの治療を安全に行うことが難しくなりますので、ご家族のサポートが欠かせません。
このページの先頭へ

DPP阻害薬の副作用

2011年05月掲載

現在ジャヌビア、グラクティブ、エクアという商品が使われています。
比較的軽症の糖尿病に使いやすい薬という評判から、すでに多くの患者さんに処方されています。使用経験のない新薬は慎重に、と以前にも述べましたが、その後低血糖の副作用が予想外に多く報告されました。DPP4阻害薬自体はマイルドな効き味なのですが、
既存のSU薬に併用すると相乗効果で血糖を下げすぎることがあります。
特に高齢者、腎機能障害のある方たちは注意を要します。併用を始めるときには状況に応じてSU薬を減量するよう、学会より勧告が出ています。似た作用機序でさらに効果の強いビクトーザという注射薬も発売されています。すでに服薬中の方、これから処方される方は主治医と相談して、特に処方開始初期には安全のために低血糖症状が起きないかよく観察してください。

このページの先頭へ

糖尿病と花粉症

2011年01月掲載
花粉症に悩まされる人たちにはつらい季節となりました。今年は例年より花粉の飛散量が
多いらしく、当院でも「花粉症デビュー」した患者さんをよく見かけます。糖尿病と関係なさそうですが、今回は花粉症などアレルギー疾患に使うお薬についての話題です。
最もよく使われる抗ヒスタミン薬には糖尿病への影響はありません。アレルギー症状が重い
場合に使用されるステロイドを含む薬が問題になります。例えば「セレスタミン」という経口薬には意外に多量のステロイドが配合されており、糖尿病患者さんが知らずに連用すると血糖が急激に高くなることがあります。注射用ステロイドも糖尿病を悪化させる可能性が高く原則として避けるべきものとお考え下さい。点鼻、吸入のステロイドは血中にあまり移行しないため、糖尿病があっても使用可能です。いずれにしても耳鼻科など他科で新規に処方を受けるときには、糖尿病があることを必ず医師に伝えていただきたいものです。
このページの先頭へ

合併症検査

2010年05月掲載
糖尿病の経過をみる上で合併症の検査は必須です。まずは3大合併症、すなわち網膜症、腎症、神経障害が進行していないか、定期的に確認する必要があります。網膜症については、血糖コントロールが安定していても最低年に1回は眼科での眼底検査をおすすめします。検診で撮影する眼底写真では一部の確認だけとなるため不十分です。腎症については初期には年に2-3回尿中微量アルブミンを調べると良いでしょう。病状が進んでいる場合には、尿蛋白、血清クレアチニンの検査が重要になります。神経障害を評価するために年に1度は靴下を脱いで主治医か看護師さんに足を見てもらいましょう。アキレス腱反射が保たれているか、また知覚の異常がないか、など足病変のリスクを評価のためです。自分の合併症の状況を知ることは自己管理の基本です。主治医と相談し、定期検査のスケジュールを組んでもらってください。
このページの先頭へ

血圧ガイドライン

2010年04月掲載
糖尿病の治療にも他の疾患と同様、ガイドラインというものが存在します。ガイドラインは世界中で行われた大規模な研究結果(エビデンス)を元にまとめられた、標準的な治療のためのルールです。たとえば、糖尿病に合併した高血圧では、使うべき降圧薬の種類に優先順位がつけられています。血管収縮因子の働きをブロックするアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)あるいはACE阻害薬が最優先とされています。その理由はこれらの薬が糖尿病の腎障害の進行を防ぐことが多くの研究で証明されたからです。その次に用いるべき薬としてカルシウムブロッカーあるいは利尿薬が推奨されています。ガイドラインはある程度の治療のレベルを保つために、医師が知っていなければならない基本事項です。別の薬のほうが患者さんに有用という根拠があれば選択の余地もありますが、昔のように勘に基づくさじかげんだけではすまない時代になりました。
このページの先頭へ

低血糖

2010年03月掲載
糖尿病の治療のために経口薬やインスリンを使用している方は低血糖への注意が必要です。
コレステロールを薬で下げても低すぎて症状が現れることはありません。それに対して血糖は70未満になると、個人差はありますが動悸や冷や汗などの症状が出現します。低血糖はくり返し起こすと症状が自覚しにくくなります。このような無自覚低血糖は意識消失発作から事故の原因になりますし、高齢者では認知症の悪化につながる場合もあり危険です。
低血糖が起きたときの処置には、即座に血糖を上げるブドウ糖と予防的にゆっくり上げる炭水化物(クッキーなど)を状況に応じて使い分けます。健康な人の血糖は1日を通して70-110の範囲から外れることがありません。低血糖を恐れるあまり高め誘導に甘んじていると、合併症が進んでしまいます。理想的な血糖管理のストライクゾーンは大変狭いものなのです。
このページの先頭へ

シックデイ

2010年02月掲載
年末年始に厳しい冷え込みがありましたがお風邪などひいていませんか?
糖尿病の患者さんが感染症にかかった状態をシックデイといいます。水分と糖分をしっかりとることが大切で、果物、お粥、うどんなど消化吸収の早いものがおすすめです。吐き気などで食欲が極端に落ちたときは、ブドウ糖の入ったスポーツドリンクも積極的に使用してもらいます。たとえ食事量が少なくても、糖尿病の薬(特にインスリン)は自己判断で中止してはいけません。感染による発熱や脱水のため血糖値は通常より上がります。私の患者さんには普段の半分程度食べられるなら、注射も内服も通常どおりに実行するようお願いしています。ふだんからシックデイ時の対処法を主治医と相談しておくといいでしょう。
このページの先頭へ

DPP4阻害薬

2010年01月掲載
今月からDPP4阻害薬という糖尿病の新しい治療薬が使えるようになります。この薬は1日1回の服用で特定の酵素の働きを抑え、小腸から分泌されるホルモンの作用を増強させます。そして食後の血糖上昇に応じて膵臓からより多くインスリンが分泌されるように作用します。新薬については従来の薬より強力なのでは、と思われがちですがそうとは限りません。現在最もよく使われているスルホニル尿素薬と比較してマイルドな効き目で、その分膵臓への負担は少なくといえます。開発時や海外でのデータによると、体重が増えにくく単独使用では低血糖も少ないようです。
新薬は昔から使われている薬と比べると蓄積されている情報が十分ではありません。効果に期待する一方で、副作用にも十分な配慮をしながら使用しなければならないと考えています。
このページの先頭へ